【認知症シリーズ第2話】サプリが何箱も届いた日──母の”不安のサイン”

家族と仲間
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母が頼んだ覚えのないサプリが届いていた日

玄関のポストに、薄い段ボール箱が一つ入っていた。
中身は「記憶力向上サプリ」。
値段も高くないし、最初は気にしなかった。

ただ、部屋に入ると同じ箱がテーブルにも、棚にも置かれていた。
母に「頼んだん?」と聞くと、

「テレビでやっててな。記憶力が良くなるらしいで」

と笑っていた。その笑顔の奥に、わずかな影があった。
自分でも“記憶への不安”を感じていたのだと思う。


繰り返し注文は、行動ではなく“不安のサイン”だった

母は夕方になると、テレビをよくつけていた。
その時間帯は通販番組が多く、

「これ飲んだらええらしいで」
「電話したらすぐ届くらしいわ」

と、テンポのよい声にそのまま行動が吸い寄せられていた。

一度注文したことを忘れ、また同じ商品を頼む。
それを本人は“買った覚え自体”忘れてしまう。

サプリが増えていくのは、
だらしなさではなく、小さな不安が形になって現れていただけだった。


対策①:通販番組を“映らなくした”小さな環境調整

放っておけば、家中がサプリの箱で埋まりかねない。
そこで、まずは テレビのリモコン設定を変えた。

通販番組の多いチャンネルを映らないようにした。

最初の数日は、
「なんでここだけ映らへんの?」
と不思議がっていたが、
次第にそのチャンネル自体を回さなくなった。

本人の自由は残したまま、刺激の入口だけをそっと閉じた。


対策②:固定電話の線を抜き、不安の“窓口”を減らす

次に手をつけたのは固定電話だった。
発信履歴を見ると、通販会社の番号がずらりと並んでいた。

悪質ではなくても、
母の不安につけ込む余地は十分にある。

そこで固定電話の線を抜いた。
母は最初「壊れたんかな?」と受話器を何度も上げていたが、
数日すると諦めたように電話から離れていった。

家の中が、少し静かになった。


対策③:携帯は“登録番号だけ発信できる設定”へ

携帯は残したかった。
家族とつながる手段は必要だからだ。

ただし、知らない番号へ掛けてしまうリスクが大きい。
そこで、

電話帳に登録された相手にしか発信できない設定

に変更した。

最初は母も不満そうだったが、
家族へ電話できれば十分らしく、すぐに慣れていった。


見逃していたものは、隣にいないと見えなかった

サプリの段ボールを片付けながら、私はあることを思いました。
母の不安は、ずっと前から、形になって出ていたのに、私は見逃していた。

仕事が忙しい。
自分の予定もある。
だから「また週末ね」で済ませていた。

でも、見逃していたのは、母の状態だけじゃありません。
母が一人で抱えていた時間そのものを、私は見逃していました。

サプリの山が教えてくれたのは、
“親の異変は、隣にいないと見えない”という、当たり前のこと。

あの日から、私は実家に顔を出す頻度を増やしました。
環境を整える「入口の対策」も、その時間の中で自然にやれるようになりました。

まとめ

サプリが家に溢れていたのは、母のだらしなさじゃありませんでした。
記憶への不安が、テレビの声に引っ張られる形で外に出ていただけ。

当時の私がやったのは、通販番組を映らなくしたこと、母がテレビを見る時間帯に一緒にいるようにしたこと、そしてクレジットカードを母のそばに置かないようにしたことです。
ただ、いちばん効いたのは「対策」ではなく、「夕方の時間帯に隣にいる」こと自体でした。

当時の私は、母の不安をずっと見逃していました。
気づけたのは、母と一緒に過ごす時間を意識的に取りはじめてから。
「また今度ね」では、見えないものがあるんだと、サプリの山が教えてくれました。

50代の親との時間は、待ってくれない。
入口を整えるより先に、隣にいる時間を増やす。
それが結果として、母にも自分にも、穏やかな日々をくれました。

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