【認知症シリーズ第3話】サプリが何箱も届いていた日──母の“不安のサイン”に気づいた瞬間

家族と仲間
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母が頼んだ覚えのないサプリが届いていた日

玄関のポストに、薄い段ボール箱が一つ入っていた。
中身は「記憶力向上サプリ」。
値段も高くないし、最初は気にしなかった。

ただ、部屋に入ると同じ箱がテーブルにも、棚にも置かれていた。
母に「頼んだん?」と聞くと、

「テレビでやっててな。記憶力が良くなるらしいで」

と笑っていた。その笑顔の奥に、わずかな影があった。
自分でも“記憶への不安”を感じていたのだと思う。


繰り返し注文は、行動ではなく“不安のサイン”だった

母は夕方になると、テレビをよくつけていた。
その時間帯は通販番組が多く、

「これ飲んだらええらしいで」
「電話したらすぐ届くらしいわ」

と、テンポのよい声にそのまま行動が吸い寄せられていた。

一度注文したことを忘れ、また同じ商品を頼む。
それを本人は“買った覚え自体”忘れてしまう。

サプリが増えていくのは、
だらしなさではなく、小さな不安が形になって現れていただけだった。


対策①:通販番組を“映らなくした”小さな環境調整

放っておけば、家中がサプリの箱で埋まりかねない。
そこで、まずは テレビのリモコン設定を変えた。

通販番組の多いチャンネルを映らないようにした。

最初の数日は、
「なんでここだけ映らへんの?」
と不思議がっていたが、
次第にそのチャンネル自体を回さなくなった。

本人の自由は残したまま、刺激の入口だけをそっと閉じた。


対策②:固定電話の線を抜き、不安の“窓口”を減らす

次に手をつけたのは固定電話だった。
発信履歴を見ると、通販会社の番号がずらりと並んでいた。

悪質ではなくても、
母の不安につけ込む余地は十分にある。

そこで固定電話の線を抜いた。
母は最初「壊れたんかな?」と受話器を何度も上げていたが、
数日すると諦めたように電話から離れていった。

家の中が、少し静かになった。


対策③:携帯は“登録番号だけ発信できる設定”へ

携帯は残したかった。
家族とつながる手段は必要だからだ。

ただし、知らない番号へ掛けてしまうリスクが大きい。
そこで、

電話帳に登録された相手にしか発信できない設定

に変更した。

最初は母も不満そうだったが、
家族へ電話できれば十分らしく、すぐに慣れていった。


怒るのではなく、“入口を整える”という優しい守り方

買いすぎを責めることはできた。
「なんでこんなに頼むの」と言えば、それで終わりだ。

でもそれでは母が傷つく。

必要だったのは、
行動を止めることではなく、混乱が起きない環境をそっと作ること。

テレビ、固定電話、携帯電話。
この3つの入口を整えるだけで、
母の表情はほんの少し柔らかくなった。

サプリ代は無駄だったかもしれない。
しかし、母の不安を少しでも軽くするための環境づくりは、
家族にとっての“豊かな浪費”だったと思う。


読者へのひとこと

認知症初期の「買いすぎ」や「同じ物の繰り返し購入」は、
“本人の問題”ではなく“不安のサイン”です。
行動を止めようとするより、
入口を静かに整えるだけで、本人の不安は確実に小さくなります。
責めなくていい。全部を正さなくていい。
家族ができるのは、その入口をそっと閉じることだけです。

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