【認知症シリーズ第4話】線路に入りかけた日──“家に戻れない不安”に寄り添った記録

家族と仲間
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迷子が増えた頃、母の行動に“違う種類の不安”を感じた

物忘れが増え始めた頃、
母の「外に出る回数」もゆっくりと増えていった。
買い物に行くつもりで家を出たのに、途中で目的を忘れて戻れなくなる。
近所の公園で立ち尽くしている母を見つけたこともあった。

この時期は、
“忘れる”よりも“道がわからなくなる”兆候が目立ち始めていた。

帰り道がわからない。
家がどの方向か思い出せない。
知っているはずの道が、知らない場所に見える。

迷子になった母は、いつも申し訳なさそうに笑いながら
「なんでやろなぁ。前は迷わんかったのに」とつぶやいた。


あの日、母は誤って踏切の中へ入ってしまった

ある日、携帯に「警察署」から着信があった。
電話に出ると、
「お母さまが踏切付近で保護されました」
という連絡だった。

急いで駆けつけると、母は警察官の隣で不安そうに座っていた。

事情を聞くと、
踏切を渡り切る前に、誤って線路内に足を踏み入れてしまったという。
駅員が非常ボタンを押し、列車は止まった。
幸いけがはなかったものの、胸が冷たくなる出来事だった。

母は震える声で
「帰るつもりやってん。道がわからんようになって…」
とつぶやいた。

怒る気持ちより、
母が感じている“家に戻れない不安”の深さが胸に刺さった。


外に出るのを止めるのではなく、“外に出なくていい理由”をつくった

徘徊を防ぐために玄関を施錠する方法もあったが、
母の自由を奪うようで躊躇した。

そこで考えたのは、
“外に出なくても落ち着ける時間”(家の中の居場所)をつくること。

そのきっかけになったのが、「折り紙」だったのです。
詳しくは下記の記事を見てください。
認知症の母が外出しなくなった“折り紙ルーチン”|一人暮らしでも家で熱中できた工夫

母はラジオを聴きながら折り紙を一つ折ると、また一つ。
気づけば30分、1時間と集中していた。

紙を折る音が静かに響き、
母の表情は穏やかだった。


“家に居場所がある”と、外に出る回数がゆっくり減った

折り紙、ラジオ、簡単な洗濯物たたみ。
家の中に“できること”が増えると、母の行動は変わり始めた。

・玄関に向かう回数が減る
・外出直前に「今日はええわ」と言う日が増える
・折り紙を取り出して自分から座る

徘徊を“止めた”というより、
**徘徊を“選ばなくなった”**という変化だった。


あの日の恐怖は忘れない。でも気づかせてくれたことがある

線路に入りかけた日の恐怖は今でも忘れない。
もし誰かが気づくのが少し遅れていたらと思うと、
背骨が冷たくなる。

でもあの日があったからこそ、
母の不安の根っこは「外に出たい」ではなく
「家で落ち着けないこと」

だと気づけた。

外出を禁止するより、
“家で安心できる時間”をつくること。

折り紙に没頭する母を見たとき、
その答えが静かに形になり始めた。


読者へのひとこと

認知症の徘徊は、
「出たい」という意思よりも、
**“家で落ち着けない不安”**が原因になることがあります。

外出を止めるのではなく、
家の中に“安心して過ごせる時間”を増やすこと。
その小さな積み重ねが、結果として徘徊を減らしていきます。

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