【認知症シリーズ第6話】転倒・入院・入所──「家で守れる限界」が静かにやってきた日

家族と仲間
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散歩中の小さな段差。まさかの転倒は、静かに訪れた

その日は、いつもの朝の散歩だった。
母が日課にしていたコースを歩いている最中、
ほんの小さな段差に足を取られて転倒した。

救急車を呼ぶほどではなく、
母も「ちょっと打っただけや」と笑っていたので、
自宅に戻って様子を見ることにした。

母はそのまま普通に過ごし、
痛みをほとんど訴えなかった。
もともと痛みに強い人だったのが裏目に出た。

しかし夜になり、膝が急に腫れて動けなくなった。


病院でわかったのは“膝のお皿の骨折”だった

急ぎ病院へ連れて行くと、
レントゲンを見た医師から淡々と言われた。

「お皿(膝蓋骨)が割れています。入院ですね。」

母は状況を理解できず、
「いつ割れたん?」
「帰るんちゃうの?」
と何度も聞き返していた。

痛みをあまり感じていなかったせいで、
深刻さが本人に伝わっていなかった。


入院初日から、母の混乱が一気に高まった

入院すると、母はすぐに不安になった。

「なんでここにいるん?」
「家に帰る」

夜になるほど混乱は強くなり、
点滴を抜こうとしたり、
ベッドから降りて歩こうとしたり。

骨折しているのに、
“動ける”ことが逆に危なく、
病棟の廊下を歩いてしまうこともあった。

看護師さんが何度も呼び止める。
けれど母は状況をつかめない。


入院3日目、主治医からの言葉は“病棟の限界”だった

入院3日目の朝、主治医から連絡があった。

  • 夜間ずっと動き回る
  • 転倒リスクが高すぎる
  • 看護師がつきっきり
  • 他の患者への安全が確保できない

そして最後にこう言われた。

「ご家族に、一度連れて帰っていただけないでしょうか」

丁寧だったが、実質的には
“この病棟では対応できない”という意味だった。

私も弟も、その現実を受け入れるしかなかった。


家に戻ると落ち着いたが、“一人では生活できない”のが明らかだった

自宅に戻ると、母は少し落ち着いた。
やはり家の安心感は大きかった。

けれど現実は厳しかった。

・トイレまでの移動が危険
・骨折を忘れて動こうとする
・当然、料理はできない
・夜になると混乱が再発

母を一人にしておくのは、
危険すぎた。

私と弟は交代で 泊まり込み体制 にした。
夜中のトイレも、何度も付き添った。


2日間で悟った、“家族だけでは守れない瞬間がある”

泊まり込みを始めて2日目、
弟が言った。

「……これ、続けるの無理やな」

私も同じだった。

母を危険にさらしたくない。
でも家族だけの体制では限界がある。

家で看る=正義
ではないことが、やっとわかった。


急遽、施設を探し、2日後にようやく入所が決まった

地域包括支援センターやケアマネに連絡し、
事情を説明すると、
「お母さまの状態なら、すぐにでも受け入れが必要です」
と言われた。

何件も断られたが、
ようやく「2日後なら入所可」という施設が見つかった。

安堵と寂しさが入り混じった気持ちだったが、
母が安全に過ごせる場所が見つかった
その一点だけは本当にありがたかった。


読者へのひとこと

家で看ることだけが“正しい介護”ではありません。
認知症の介護には、家族だけでは支えきれない瞬間が必ずあります。

専門家に任せるという選択は、
逃げでも義務放棄でもなく、
家族の未来と本人の安全を守るための選択肢です。

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